人材派遣業界における適正な健康保険・年金制度の適用

社団法人日本人材派遣協会/株式会社ニッセイ基礎研究所

人材派遣業界における適正な健康保険・年金制度の適用(PDF:136KB)
  目次
 
 
 
  I.社会保険、雇用保険適用の現状と課題
1.問題の所在
(1) 課題認識
1986年に労働者派遣法が施行されて以降20年が経過し、一般労働者派遣事業における登録者数は2003年度には約200万人へと増加している。人材派遣業は、労働力需給調整システムにおいて、一定の役割を果たしてきており、その役割はますます大きくなってきているといえる。2004年3月に施行された改正労働者派遣法により、対象業務の拡大等が行われるなどの規制緩和が進み、労働市場における人材派遣業の役割は今後も重要性を増していくと考えられる。
人材派遣業においては、雇用主と指揮命令者(実質的な使用者)が異なるという派遣システム、及び派遣労働者の就労特性である「短期性」、「断続性」、「不規則性」、「移動性」に起因して、現行社会保険、雇用保険の適用等において様々な問題が生じている。社会保険・雇用保険制度は、一定の条件を満たせば強制加入が求められる制度であり、人材派遣業においても例外ではない。これまで業界としても適用促進のための取組みを行ってきたが、派遣就労の特殊性から、一般の長期的、継続的な就労を前提に組み立てられた保険制度との間に不整合が生じている部分も多い。このため、適用にあたってのグレーゾーンが生じてしまい、企業、担当者によりばらつきがでてしまうことを排除できない。また、今後の労働者派遣事業者の増加社会保険料の上昇に伴い、社会保険の適用を意図的に行わない企業も発生してくる可能性も否定できない。
社会保険、雇用保険の適用が、現行制度の下で適切に行われるべきであることは当然であるが、派遣就労と現行制度のミスマッチが埋まらない部分もあり、それが派遣労働者の不利益になっているとすれば、派遣労働者の福祉向上の視点からも制度面の改善を図ることが必要である。
そこで、本調査研究においては、派遣就労の実態を踏まえ、主に次の3点について検討を進めた。
[1] 現行制度における社会保険、雇用保険の適正な適用のあり方
[2] 社会保険制度において改善すべき点
[3] 今後の社会保険料率の上昇が派遣元企業に及ぼす影響を踏まえた対応のあり方
(2) 現行制度の概要
[1] 派遣元事業主の責任
人材派遣システムにおいて、社会保険、雇用保険の適用は、派遣元事業主の責任となっている。雇用関係は派遣労働者と派遣元事業主との間に成立しており、労働契約、賃金等の労働条件はすべて派遣元事業主が責任を負うこととなっていることから、派遣労働者が「使用される事業所」は派遣元事業所とされている。したがって、派遣元事業所が労働・社会保険の適用事業所であれば、その事業所に使用される者は、一定の要件を満たせば強制被保険者として社会保険、雇用保険の適用を受けることとなる。
1999年12月に施行された改正労働者派遣法では、派遣労働者の社会保険等の加入促進を目的に、次の第35条の規定が設けられた。また、第35条第2号に基づく労働者派遣法施行規則において、派遣元事業主は派遣先に対して、労働者が健康保険、厚生年金保険、雇用保険の被保険者になったことについて通知する義務を負うこととなった。
【労働者派遣法】
 第3章 派遣労働者の就業条件の整備等に関する措置
 第2節 派遣元事業主の講ずべき措置等
 第35条〔派遣先への通知〕
派遣元事業主は、労働者派遣をするときは、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる事項を派遣先に通知しなければならない。
1.当該労働者派遣に係る派遣労働者の氏名
2.当該労働者派遣に係る派遣労働者に関する健康保険法第39条第1項の規定による被保険者の資格の取得の確認、厚生年金保険法第18条第1項の規定による被保険者の資格の取得の確認及び雇用保険法第9条第1項の規定による被保険者となったことの確認の有無に関する事項であって厚生労働省令で定めるもの
3.その他厚生労働省令で定める事項
【労働者派遣法施行規則】
(平成15年3月28日厚生労働省令第59号)
 (法第35条第2号の厚生労働省令で定める事項)
第27条の2 法第35条第2号の厚生労働省令で定める事項は、当該労働者派遣に係る派遣労働者に関して、次の各号に掲げる書類がそれぞれ当該各号に掲げる省令により当該書類を届け出るべきこととされている行政機関に提出されていることの有無とする。
1 健康保険法施行規則(大正15年内務省令第36号)第24条第1項に規定する健康保険被保険者資格取得届
2 厚生年金保険法施行規則(昭和29年厚生省令第37号)第15条に規定する厚生年金保険被保険者資格取得届
3 雇用保険法施行規則(昭和50年労働省令第3号)第6条に規定する雇用保険被保険者資格取得届
2 派遣元事業主は、前項の規定により前項各号に掲げる書類が提出されていないことを派遣先に通知するときは、当該書類が提出されていない具体的な理由を付さなければならない。
さらに、派遣元事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な事項を定めた「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」において、派遣労働者の社会保険、労働保険の適用の促進について次の内容が示されている。
【派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針】
(平成11年11月17日・労働省告示第137号の一部改正-平成15年12月25日・厚生労働省告示第448号)
 第2 派遣元事業主が講ずべき措置
  4 労働・社会保険の適用の促進
  (1)労働・社会保険への適切な加入
派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の就業の状況等を踏まえ、労働・社会保険の適用手続を適切に進め、労働・社会保険に加入する必要がある派遣労働者については、加入させてから労働者派遣を行うこと。 ただし、新規に雇用する派遣労働者について労働者派遣を行う場合であって、当該労働者派遣の開始後速やかに労働・社会保険の加入手続を行うときは、この限りでないこと。
  (2)派遣労働者に対する未加入の理由の通知
派遣元事業主は、労働・社会保険に加入していない派遣労働者については、派遣先に対して通知した当該派遣労働者が労働・社会保険に加入していない具体的な理由を、当該派遣労働者に対しても通知すること。
[2] 派遣先事業主の責任
一方、派遣先事業主に対しても、「派遣先事業主が講ずべき措置」に関する指針において、社会保険、労働保険の適正な適用に向け、派遣元事業主から派遣法第35条第2号の通知を受けた場合に、社会保険、労働保険に加入していない理由が適正でないと考えられる場合に、派遣元事業主に対し、当該派遣労働者を社会保険、労働保険に加入させてから派遣するよう求めること、とされている。
【派遣先事業主が講ずべき措置に関する指針】
(平成11年11月17日・労働省告示第138号の一部改正-平成15年12月25日・厚生労働省告示第449号)
 第2 派遣先が講ずべき措置
  8 労働・社会保険の適用の促進
  (1)労働・社会保険への適切な加入
派遣先は、労働・社会保険に加入する必要がある派遣労働者については、労働・社会保険に加入している派遣労働者(派遣元事業主が新規に雇用した派遣労働者であって、当該派遣先への労働者派遣の開始後速やかに労働・社会保険への加入手続が行われているものを含む。)を受け入れるべきであり、派遣元事業主から派遣労働者が労働・社会保険に加入していない理由の通知を受けた場合において、当該理由が適正でないと考えられる場合には、派遣元事業主に対し、当該派遣労働者を労働・社会保険に加入させてから派遣するよう求めること。
[3] 社会保険制度における派遣労働者に対する適用の考え方
派遣労働者に対する健康保険、厚生年金保険の適用に関しては、原則として健康保険法及び厚生年金保険法の条文がそのまま適用されることとなる。
まず、社会保険の適用は、強制適用業種のすべての法人事業所や常時5人以上の従業員を使用する事業所であり、事業所単位で適用を受け(適用事業所)、そこに働く者が被保険者となる。
適用事業所に働く者は、国籍などに関係なく被保険者となる。しかし、常用的な使用関係にない者など次にあげる者は、被保険者の対象から除かれ、健康保険は原則として日雇特例被保険者(引き続く2ヵ月間に通算して26日以上使用される見込みのないことが明らかなときを除く。)、年金制度は国民年金が適用になる。
日々雇い入れられる者(1ヵ月以内)
2ヵ月以内の期間を定めて使用される者
季節的業務(4ヵ月以内)に使用される者
臨時的事業の事業所(6ヵ月以内)に使用される者
【健康保険法】
(大正11年[1922年]4月22日法律第70号)
 第1章 総則
 第3条〔定義〕
この法律において「被保険者」とは、適用事業所に使用される者及び任意継続被保険者をいう。ただし、次の各号のいずれかに該当する者は、日雇特例被保険者となる場合を除き、被保険者となることができない。
1 船員保険の被保険者(船員保険法(昭和14年法律第73号)第19条ノ3の規定による被保険者を除く。)
2 臨時に使用される者であって、次に掲げるもの(イに掲げる者にあっては1月を超え、ロに掲げる者にあってはロに掲げる所定の期間を超え、引き続き使用されるに至った場合を除く。)
イ 日々雇い入れられる者
ロ 2月以内の期間を定めて使用される者
3 事業所又は事務所(第88条第1項及び第89条第1項を除き、以下単に「事業所」という。)で所在地が一定しないものに使用される者
4 季節的業務に使用される者(継続して4月を超えて使用されるべき場合を除く。)
5 臨時的事業の事業所に使用される者(継続して6月を超えて使用されるべき場合を除く。)
6 国民健康保険組合の事業所に使用される者
7 保険者又は共済組合の承認を受けた者(健康保険の被保険者でないことにより国民健康保険の被保険者であるべき期間に限る。)
(中 略)
 8 この法律において「日雇労働者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
1 臨時に使用される者であって、次に掲げるもの(同一の事業所において、イに掲げる者にあっては一月を超え、ロに掲げる者にあってはロに掲げる所定の期間を超え、引き続き使用されるに至った場合(所在地の一定しない事業所において引き続き使用されるに至った場合を除く。)を除く。)
イ 日々雇い入れられる者
ロ 2以内の期間を定めて使用される者
2 季節的業務に使用される者(継続して4月を超えて使用されるべき場合を除く。)
3 臨時的事業の事業所に使用される者(継続して6月を超えて使用されるべき場合を除く。)
(以下略)
【厚生年金保険法】
(昭和29年[1954年]5月19日法律第105号)
 12条〔適用除外〕
次の各号のいずれかに該当する者は、第9条及び第10条第1項の規定にかかわらず、厚生年金保険の被保険者としない。
1 国、地方公共団体又は法人に使用される者であつて、次に掲げるもの
イ 恩給法(大正12年法律第48号)第19条に規定する公務員及び同条に規定する公務員とみなされる者
ロ 法律によつて組織された共済組合(以下単に「共済組合」という。)の組合員
ハ 私立学校教職員共済法(昭和28年法律第245号)の規定による私立学校教職員共済制度の加入者(以下「私学教職員共済制度の加入者」という。)
2 臨時に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く。)であつて、次に掲げるもの。ただし、イに掲げる者にあつては1月を超え、ロに掲げる者にあつては所定の期間を超え、引き続き使用されるに至つた場合を除く。
イ 日々雇い入れられる者
ロ 2月以内の期間を定めて使用される者
3 所在地が一定しない事業所に使用される者
4 季節的業務に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く。)。ただし、継続して4月を超えて使用されるべき場合は、この限りでない。
5 臨時的事業の事業所に使用される者。ただし、継続して6月を超えて使用されるべき場合は、この限りでない。
すなわち、登録型の派遣労働者の社会保険の適用は、雇用契約期間が2ヵ月以内か2ヵ月を超えるか、が基本的な判断基準となる。
【常用的雇用関係にあるとき】
【2ヵ月以内の契約を結び臨時に使用された者が、所定期間を超えて継続的に使用されるとき】
また、労働時間に関しては、1日または1週間の労働時間、および1ヵ月の労働日数が、その事業所で同種の業務を行う通常の労働者のおおむね4分の3以上ある場合に社会保険の被保険者とすることとされている。「同種の業務を行う通常の労働者」は、一義的には派遣元事業所において判断され、「通常の労働者」には派遣労働者も含まれるとの解釈がなされている(2004年11月26日付け保保発第1126001号)。
[4] 雇用保険制度における派遣労働者に対する適用の考え方
雇用保険は、原則として労働者を1人でも雇用する事業は適用事業となり、適用事業に雇用される労働者は雇用保険の被保険者となる。派遣労働者への雇用保険の適用は、社会保険と同様に派遣元事業主が行うこととされている。
近年の働き方の多様化に対応して、2001年度から、雇用保険の適用基準が緩和されている。
【雇用保険制度適用基準の改正のポイント】(2001年4月以降)
 適用基準のうち、次が撤廃。
・年収要件:年収が90万円以上見込まれる場合にのみ適用するという要件
・1ヵ月当たりの所定労働日に関する要件:1ヵ月11日以上就労する場合にのみ適用するという要件
登録型の派遣労働者の雇用保険の適用は、以下に掲げる<1>及び<2>のいずれにも該当する場合に被保険者となる。ただし、労働者の持っている技能やその業務の派遣需要などを考慮し、当初の雇入時から1年以上反復して雇用されることが見込まれる場合には、当初の雇入時から雇用保険を適用する。また、当初の雇入時には1年以上反復して雇用することが見込まれない場合であっても、その後の就労実績等から考えて、1年以上反復して雇用することが見込まれる場合には、その時点から雇用保険を適用することとなる。
<1> 反復継続して派遣就労するものであること。次のア又はイに該当する場合。
ア. 一の派遣元事業主に1年以上引き続き雇用されることが見込まれるとき。
イ. 一の派遣元事業主との間の雇用契約が1年未満の場合であっても雇用契約と次の雇用契約の間隔が短く(次の【例】参照)、その状態が通算して1年以上続く見込みがあるとき。この場合、雇用契約については派遣先が変わっても差し支えない。
【例1】同じ派遣元A社から、派遣先B社に6ヵ月、派遣先C社に6ヵ月と、通算して1年以上派遣されることが見込まれる場合
【例2】同じ派遣元A社から、派遣先B社、C社及びD社に2ヵ月ずつ1ヵ月程度の間をあけて、通算して1年以上派遣されることが見込まれる場合
【例3】同じ派遣元A社から、派遣先B社、C社及びD社に1ヵ月以内の期間ずつ数日の間をあけて、通算して1年以上派遣されることが見込まれる場合
<2> 1週間の所定労働時間が20時間以上であること。
(3) 登録型の派遣就労の特性
[1] 雇用と使用の分離
人材派遣は、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」(労働者派遣法第2条)であり、雇用主と使用者が分離している点に大きな特徴がある。社会保険制度においては、「使用者責任」として社会保険の適用が労働者を使用する(=雇用する)事業主に求められているが、前述のように、人材派遣業においては、社会保険の適用は雇用主である派遣元事業主の責任とされている。
また、登録型派遣においては、登録時は雇用関係が成立せず、派遣先からの依頼に基づき派遣契約が成立した後に、派遣元企業が適切な派遣労働者を派遣することとなる。すなわち、派遣先のニーズの存在が派遣就労の前提となることから、派遣元企業にとって、自律的に派遣労働者と雇用関係を結ぶことが難しいという実態がある。このため、派遣労働者が常用的な雇用関係にあるか否かを派遣元の判断のみで行うのは難しい実態がある。
[2] 就労特性
登録型の人材派遣制度においては、その就労の特性として、短期性、断続性、不規則性、移動性といった特徴が指摘されてきた。
派遣先からのオーダーに対応する形で締結される派遣契約は、一般的には1年未満の契約が多く、派遣労働者と派遣元事業主との間で締結される雇用契約も、それに伴い、短期的、断続的になりがちである。当該派遣契約が終了すれば、同時に雇用契約も終了することが多く、派遣労働者にとっては登録のみの状態に戻り、その間は派遣就労の実態が発生しないこととなる。
また、派遣労働者は、その就労の不安定性から、複数の派遣元企業に登録するケースも多く、雇用主である派遣元企業が就労の都度変動するケースもあり、流動的で移動性の高い労働力となっている。
そもそも、現行の労働者派遣法においては、常用労働者の雇用代替につながらないように等の配慮から、派遣先の派遣受入期間について次の(a)に掲げるような業務に関しては最長3年という制限が加えられている。一方、派遣受入期間の制限がない業務((b)~(f)の業務)の場合は、同一の業務に同一の派遣労働者を3年を超えて受け入れることができるが、その業務に新たに労働者を雇入れようとするときは、派遣先は、その派遣労働者に対して雇用契約の申込みをしなければならないこととされている。
このように、派遣労働者は、もともと長期的な雇用関係を予定しない働き方ととらえられてきた。したがって、人材派遣という働き方の特殊性から、長期雇用を前提に構築された現行の社会保険制度等とミスマッチが生じるのは当然ともいえる。
【業務別の派遣受入期間の制限】
(a) (b)~(g)以外の業務:最長3年まで。ただし、1年を超える派遣を受けようとする派遣先は、あらかじめ、派遣先の労働者の過半数で組織する労働組合等に対し、派遣を受けようとする業務、期間及び開始予定時期を通知し、十分な考慮期間を設けた上で意見を聴き、その聴取した意見の内容等を書面に記載して3年間保存しなければならない。
(b) ソフトウエア開発等の政令で定める業務(いわゆる「26業務」):制限なし
(c) いわゆる3年以内の「有期プロジェクト」業務:プロジェクト期限内は制限なし
(d) 日数限定業務: 制限なし
(e) 産前産後休業、育児休業等を取得する労働者の業務:制限なし
(f) 介護休業等を取得する労働者の業務:制限なし
(g) 製造業務: 2007年2月末までは1年。それ以降は(a)と同様に最長3年
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2.これまでの業界としての取組み
(1) 社会保険制度
人材派遣業界としては、派遣就労の特殊性に応じた社会保険のあり方について、これまでも繰り返し提言や要望を行ってきており、一部改善も図られてきた。
また、派遣業界として、2002年5月に人材派遣健康保険組合(「はけんけんぽ」)を設立し、各種事業を展開している。「はけんけんぽ」は、2005年3月現在、加入事業所数305事業所、被保険者数約30万人の規模となっている。
「はけんけんぽ」には、継続して2ヵ月以上加入しているときには、本人の申請により被保険者を最長2年間継続することができる「任意継続」の制度がある。通常任意継続期間の保険料は、事業主負担分も含めて全額自己負担になるが、「はけんけんぽ」では、派遣労働者の断続的な就業特性に対応し、任意継続した月と翌月の2ヵ月間に限り「特例期間」として保険料の上限を8,700円に引き下げ、3ヵ月目以降の保険料も上限が13,920円に抑えられているため、割安に継続できるというメリットがある。
(2) 雇用保険制度
雇用保険制度に関しては、派遣労働者からみれば、保険料の負担感は厚生年金保険等に比べて格段に低く、失業給付等のメリットも身近に感じられることから、保険加入の希望が強い傾向にある。また、派遣就労が発生しない空白期間は保険料負担が生じないため、社会保険のように就労中断に伴い異なる制度間を移動する必要もないことから、社会保険のような適用上の問題はほとんどない。むしろ、適用の問題よりも資格得喪等手続き面の煩雑さへの課題認識が、多くの派遣元企業において指摘されている。
手続きの簡素化に関しては、2005年1月に、(社)日本人材派遣協会から厚生労働省職業安定局雇用保険課に対して「『一般労働者派遣事業における雇用保険事務手続きの簡素化に関する要望』について」を提出し、2005年8月から一定の改善が図られている。
また、手続きの一部について、現在電子申請への移行が進められており、手続きは厚生労働省HPにおいて公開されている。雇用保険については、OCR用の帳票を用いるもの以外は電子手続きが可能であり、今後さらに電子化の拡大が期待できる。
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3. 課題
長期継続的に事業主と雇用契約を結ぶ通常の労働者を前提に構築された社会保険制度は、現状において登録型の人材派遣システムとの間に不整合を起こしている部分が多い。一方雇用保険に関しては、前述のように2005年の制度改正により一定の前進がみられ、今後電子申請等が進行すれば、手続きの簡素化が図られることが期待できる。
したがって、以下では社会保険制度を中心に課題を提起することとする。
[1] 社会保険制度と派遣の就労実態とのミスマッチの存在
人材派遣業界において、これまで繰り返し指摘されてきたのは、新しい働き方として認知された派遣の就労実態が、長期継続的な常用労働者を前提に構築された社会保険の制度とマッチしない、という問題である。働き方の多様化が進む中で、とりわけ社会保険制度制定時には想定されていなかった雇用と使用の分離、あるいは雇用関係が派遣先のオーダーによって発生するといった雇用の短期性、不規則性等の特徴は、現行社会保険制度において適用の判断の難しさ、あるいは手続きの煩雑さといった問題を生じさせている。この問題に関しては、現行制度の運用の改善により問題の軽減が図られるものもあるが、社会保険制度の抜本的な制度改正が必要な部分もある。
人材派遣業界としては、まずは現行制度の下で運用の改善を働きかけるとともに、社会保障制度の改革の大きな流れの中で働き方の多様化と社会保障との整合性を図ることの重要性を訴えていく必要がある。
[2] 適用ルールが曖昧
現行社会保険制度は、一定の要件を満たす者は強制加入が求められている。通常の常用労働者であれば、本人の選択の余地なく要件を満たす場合には社会保険に加入しなければならない。しかし、人材派遣業において、この強制適用の考え方が必ずしも徹底していない部分もある。そもそも、派遣労働者への社会保険適用の判断は難しい面も多いが、業界としてこれを曖昧なままにしていては、社会保険制度改正の要望を行っても説得力があるとはいえず、また、一定の要件を満たせば強制加入となる制度本来の考え方と照らしても問題が多い。派遣就労の特性を踏まえつつ、可能な限り社会保険適用の考え方を明確にして、派遣元企業に対して適用を徹底させていくことは、今後業界として建設的な制度提案を行う前提としても不可欠である。
[3] 資格得喪手続き、脱退・加入手続きの煩雑さ
派遣元企業においては、派遣労働者の多様な就労の実態に合わせて、社会保険資格の得喪手続きが頻繁に発生する。派遣元企業の中には、そのための担当者が全国で20人程度に上るとする企業もあり、膨大なコストになっている。また、年金手帳を確認するなど、派遣労働者との間で重要書類のやり取りも多く、その際の郵送料も大きなコストと認識されている。したがって、社会保険の運用の見直し等により、こうした手続きの簡素化が図られれば、派遣元企業にとって事務の合理化、省力化が可能になり、コスト削減につながると考えられる。
一方の派遣労働者においては、現状では、就労実態に応じて複数の制度間で加入・脱退を行わなくてはならない。また、国民健康保険のように、自治体の窓口で手続きを行わなくてはならない場合もあり、派遣就労を開始している場合には休暇を取って出向かなくてはならず、派遣労働者にとって負担となっている。社会保険の加入・脱退の手続きは、派遣労働者に限らず、一般の労働者においても離職や転職等に伴い発生することではあるが、派遣労働者は短期間で制度間の移動が発生し、その頻度が高い点に大きな特徴がある。一般の労働者であれば、生涯に数回程度の手続事務が、派遣労働者の場合には1年間の中で複数回発生することもある。したがって、派遣労働者のように、短期・断続的な就業が多い労働者にとっては、保険加入を適正に行おうとすると大きな負担になっている。
この点からも、可能な限り複数の保険制度の加入・脱退手続きの一元化を図ることにより、派遣労働者の手続きの簡素化が求められる。
[4] 派遣労働者にとっての不利益の発生
現行社会保険制度が派遣労働者にもたらす不利益も見過ごすことはできない。
現行健康保険制度の下では、同月内に複数の保険制度を得喪手続きを行った場合に、その月の保険料が二重に発生するといった問題がある。また、社会保険料の標準報酬月額の定時決定が、4月、5月、6月に受けた報酬の平均額で決定されるために、他の通常月に比べて労働時間の長い4月、5月に受け取る報酬が含まれることから、割高になってしまっているという問題も派遣元企業を通じて指摘されている。
こうした派遣労働者の不利益の発生は、派遣労働者が社会保険加入を忌避する原因ともなるため、派遣労働者にとって納得性の高い制度への改善が求められる。
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  Ⅱ.現行制度の下での対応の方向性
以上の現状分析と課題を踏まえ、本章と次章で、制度改正等の要望の方向を指摘したい。本章ではまず、現行制度を前提として人材派遣業界として対応すべき内容をとりまとめ、次章では、制度改正や運用のあり方にかかる提言をとりまとめている。
1. 公正なルールの下で社会保険の適用促進
現行の社会保険制度は、一定の条件を満たす労働者については、制度が強制適用される仕組みとなっており、この制度の下では、派遣元企業は法に則った適正な適用を進めることは当然である。特に、派遣労働者が社会保険制度加入を拒否する実態があるが、社会保険は強制適用の制度であること、制度加入のメリットを訴求し、派遣労働者の制度理解促進のための取組みを行う必要がある。
そして、業界内である程度統一したルールで適用が行われるよう、業界内のガイドラインのようなものを作成することを提案する。今般、企業によって対応にばらつきがでている点を中心に社会保険庁に対してヒアリング調査を実施した。この結果を踏まえ、以下に登録型の派遣労働者に対する社会保険の取扱いの基本的な考え方を示すので、これを参考にして派遣業界においてルールの徹底化を図ることを提案したい。なお、社会保険の適用の微妙な判断は一義的には現場において判断されるため、派遣元企業の社会保険関連事務担当者の資質の向上は重要である。ガイドラインに沿った適正な適用事務が行われるよう、担当者の研修等に業界として注力することも重要であろう。
同時に、社会保険の適用漏れをなくすためには、派遣元企業に対するチェックシステムも必要である。現在、(社)日本人材派遣協会あるいは「はけんけんぽ」等に派遣元企業の社会保険適用について調査をする権限はなく、社会保険の適用は派遣元企業の法令遵守の姿勢に委ねられている。よりよい社会保険制度への提言のためには、派遣元企業各社の真摯な取組み姿勢が何よりも重要であることを十分認識する必要があるが、それだけでは不十分な場合には、(社)日本人材派遣協会や「はけんけんぽ」において、会員企業の社会保険加入状況について定期的に調査を実施し、傘下企業等の適用促進を推進する取組みが求められよう。
それに加え、派遣労働者が、社会保険加入に対して派遣元企業との間に問題が生じた場合に相談ができ、可能な範囲で事業主に働きかけができる苦情処理相談の仕組みを、(社)日本人材派遣協会の相談センター等を活用する中で構築し、派遣労働者に周知することも検討課題といえよう。
<<社会保険の取扱いについて>>
● 基本的な考え方
派遣労働者の場合には、「使用される事業所」は派遣元事業所である。派遣元事業所が適用事業所となっていれば、その事業所に使用される者は、常用型・登録型を問わず、「強制被保険者」として社会保険が適用されることは、通常の労働者とまったく同様である。
まず、社会保険の適用は、強制適用業種のすべての法人事業所や常時5人以上の従業員を使用する事業所が対象となり、事業所単位で適用を受け(適用事業所)、そこに働く者が被保険者となる。適用事業所に働く者は、国籍などに関係なく被保険者となる。しかし、日々雇い入れられる者を含めて常用的な使用関係にない者など次にあげる者は、被保険者の対象から除かれ、健康保険は日雇特例被保険者が適用になる(健康保険法第13条の2)。
[1] 日々雇い入れられる者(1ヵ月以内)
[2] 2ヵ月以内の期間を定めて使用される者
[3] 季節的業務(4ヵ月以内)に使用される者
[4] 臨時的事業の事業所(6ヵ月以内)に使用される者
特に人材派遣業においては、上記の②が重要である。つまり、派遣労働者との間に締結する最初の雇用契約が2ヵ月以内か、2ヵ月を超えるかが社会保険加入の一つのポイントとなる。ただし、臨時に使用される者であっても、その使用される状態が常用化した場合には強制被保険者となり、2ヵ月以内の契約を定めて使用される者が契約期間経過後なお引き続き使用されるような場合は、常用的使用関係となったとして強制被保険者とする。つまり、使用関係の実態が常用労働者の性格を帯びたか否かという点から、引き続き使用されるという継続性を判断する必要がある。
この場合、実質的な使用関係が問題となることから、あくまでも派遣労働者との間の「雇用契約」が問題となり、派遣先が異なっても派遣労働者との間の雇用関係が継続していれば、「引き続き」使用されているということになる。
● ケースごとの考え方
[1] 2ヵ月を超える雇用契約の場合
【適用のポイント】
*通常の労働者と同様に、雇用契約時に強制適用となる。
[2] 2ヵ月以内の雇用契約で、契約更新見込みがない場合
・2ヵ月以内の短期派遣(派遣先が異なる)を常態としている者
・雇用契約を更新していない者
【適用のポイント】
*2ヵ月以内の期間を定めて使用される者に対する健康保険の適用は、日雇特例被保険者となる(引き続く2ヵ月間に通算して26日以上使用される見込みのないことが明らかなときを除く)。ただし、実態としては、派遣労働者が国民健康保険に加入している。
*年金は就労・非就労期間両方を通じて国民年金となる。
[3] 2ヵ月以内の雇用契約で、契約更新があった場合
・当初2ヵ月以内の雇用契約で派遣され、契約が更新された者
[3-1] 更新された契約が2ヵ月を超える場合
【適用のポイント】
*当初は2ヵ月以内の雇用契約であったが、その期間経過後も引き続き就労されることとなり、それが2ヵ月を超える契約の場合、最初の雇用契約の所定の期間を超えて引き続き雇用された時点で強制被保険者となる。
[3-2] 更新された契約が2ヵ月以内の場合
【適用のポイント】
*当初は2ヵ月以内の雇用契約であったが、その期間経過後2ヵ月以内の雇用契約で雇用されることとなった場合、原則として最初の雇用契約により雇用された時点から2ヵ月を経過した時点で強制被保険者となる。ただし、当初2ヵ月契約で派遣され1ヶ月延長されたが、それ以降は延長の予定がない(結婚までの期間、海外留学までの期間等)場合には、継続的な雇用関係に移行したとは認められないので、被保険者としては適用しないこととなる。
*継続的な雇用関係にあるかどうかの判断は一義的には派遣元事業主が行うこととなる(ただし、制度上は保険者が適用が法に適っているか否かを判断する責任をもっている)。
[4] 2ヵ月を超える雇用契約が終了し、就労がない空白期間を経て再び派遣就労が開始する場合
・2ヵ月を超える雇用契約で派遣就労し、派遣就労がない空白期間を経て、再び派遣就労が開始される者
【適用のポイント】
*雇用契約終了後、最大1ヵ月以内に、同一の派遣元事業主のもとでの派遣就労にかかる次回の雇用契約(1ヵ月以上のものに限る。)が確実に見込まれるときには、使用関係が継続しているものとして取り扱い、被保険者資格は喪失させないこととして差し支えない。なお、1ヵ月以内に次回の雇用契約が締結されなかった場合には、その雇用契約が締結されないことが確実になった日又は当該1ヵ月を経過したいずれか早い日をもって使用関係が終了したものとし、その使用関係終了日から5日以内に事業主は資格喪失届を提出する義務が生じ、派遣就業に係る雇用契約の終了時に遡って被保険者資格を喪失させるものではない。(2002年4月24日付け保保発第0424001号)
*1ヵ月以内に次の派遣就労が見込まれるかどうかは、行政機関等が判断することはできないので、一義的には派遣元事業主が行うこととなる(ただし、制度上は保険者が適用が法に適っているか否かを判断する責任をもっている)。
[5] 2ヵ月以内の雇用契約が終了し、就労がない空白期間を経て再び2ヵ月を超える派遣就労が開始する場合
・2ヵ月以内の期間の契約で派遣され、就労がない期間を経過後に、再び2ヵ月を超える派遣就労が開始される者
【適用のポイント】
*二つの派遣就労の間に1日~数日の空白期間がある場合、空白期間の前後に実質的な使用関係が継続していると認められるか否かによりケース1とケース2に分かれる。
*ケース1は、空白期間前後の派遣就労が実質的に継続した派遣であると認められる場合で、最初の雇用契約においては適用除外として、空白期間になった時点から被保険者として適用する。たとえば、空白期間が非営業日(日曜、祝日、年末年始等)である場合、業務の都合上雇用契約に切れ目が生じる場合などが考えられる。
*ケース2は、空白期間後の派遣就労のみが実質的に継続した派遣と認められる場合で、当初の契約が2ヵ月以内の期間を定めて雇用される契約のため、通常はケース2に該当すると考えられる。
[6] 短時間労働者の場合
・短時間勤務で派遣就労を行う者
【適用のポイント】
*労働時間に関しては、1日または1週間の労働時間、および1ヵ月の労働日数が、その事業所で同種の業務を行う通常の労働者のおおむね4分の3以上ある場合に社会保険の被保険者とすることとされている。「同種の業務を行う通常の労働者」は、派遣元事業所において判断され、「通常の労働者」には派遣労働者も含まれるとの解釈がなされている。(平成16年11月26日付け保保発第1126001号)
*「同種の業務を行う」の判断は実際には難しく、派遣元事業所の通常の労働者と同義に解釈してもやむをえないと考えられる。したがって、通常の労働者の所定労働時間が仮に1日7時間45分であれば、それを基準にしなくてはならない。
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2. 社会保険料負担上昇への対応
社会保険料の事業主負担が、今後派遣元企業の経営を圧迫することが懸念されている。経営への影響を最小限にして派遣元企業が健全な経営を行うためには、派遣元企業としては、派遣先企業に対して派遣料金の引き上げへの理解を求めることが必要になる。しかし、派遣元企業が派遣先に対して個別に理解を求めていくのには限界があり、業界としても、公正な市場競争を妨げない範囲で、社会保険料の事業主負担上昇が業界に与えるインパクトについて派遣先の理解を求めていく必要がある。事業主負担の上昇分の一部が派遣料金に反映されてもやむをえないと考える派遣先事業所も協会調査によると決してけして少なくはない。このことから、社会保険料が上昇すれば派遣料金が上昇するという派遣元企業の主張に対して、派遣先企業からも一定の理解は得られるのではないかと考えられる。
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  Ⅲ.社会保険制度改正にかかる提言・要望
現状においては、Ⅱ章で述べたとおり、まず現行の派遣システム及び社会保険制度の下で適切な適用等を行うことが派遣元事業主に求められる。
しかし、本報告書で繰り返し述べてきたように、そもそも登録型派遣のような働き方を想定していなかった時代に成立した社会保険制度の枠組みの中で派遣労働者への制度適用を進めるのは困難な点も多い。派遣労働者の急速な増加、労働市場における需給調整に人材派遣システムが果たす役割の高まりといった現状を踏まえ、人材派遣システムと整合的な社会保険制度への転換を継続的に要望していくことは必要である。現行制度は、派遣労働者にとってデメリットが存在し、派遣労働者の福祉の増進という点からも改善すべき点がある。
以下、今後とも引き続き業界として要望を行う必要がある事項について指摘したい。
1. 短期派遣の場合の健康保険適用について
現行健康保険制度においては、2ヵ月以下の短期の派遣(ただし引き続く2ヶ月に通算して26日以上使用されることが見込まれる)の場合には、健康保険は原則として日雇特例被保険者として取り扱うこととされている。しかし、日雇特例被保険者を適用している派遣元企業は現実にはない。現行制度の下では、国民健康保険の適用が現実的であり、実際の運用においては、派遣労働者は国民健康保険に加入するという対応がとられている。日雇特例被保険者の制度は事務負担があまりに大きい上に、派遣労働者自身も日雇特例被保険者ではなく国民健康保険を望む、という状況から、この制度は形骸化しているにもかかわらず、法を厳格に適用しようとすると日雇特例被保険者の適用になってしまうという現状は制度改正による改善が必要である。
具体的には、短期の派遣の場合には日雇特例被保険者ではなく国民健康保険制度の適用となることを法的に明確にすることを提言すべきである。
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2. 保険料の二重負担問題について
健康保険に関して、同月内に複数の制度の資格の得喪が発生すると、複数の保険でそれぞれ保険料の負担、すなわち二重の負担の問題が発生する。これは、健康保険、国民健康保険、任意継続制度に共通している。一方年金に関しては、月末の加入により保険料の納付が決まるため、この問題はない。加入と給付が時間的に接近している健康保険においては、年金のような形で月末の時点で加入する保険を決定する、という考え方はとりにくい面もある。二重負担の問題は、派遣労働者に限ったものではなく、転職者や再就職者も同様に発生しうるものである。しかし、派遣労働者は、短期で就業・非就業を繰り返すために、二重負担の発生頻度は通常の労働者に比べて格段に高くなりやすい。このような負担が解消されなければ、派遣労働者の保険加入の徹底も難しくなる。
したがって、この二重負担を解決するために、保険料の日割り計算の可能性、あるいは、「はけんけんぽ」と他の健康保険組合等との負担の調整の可能性等について検討する必要があると考える。
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3. 標準報酬の定時決定について
現行制度では、保険料算定にあたり、1ヵ月の報酬の支払い基礎日数が20日以上の月の給与をベースに計算されるが、派遣労働者の変動の激しい就労実態となじまない点が多い。年間保険料の決定を行う定時決定の際に、4~6月の給与を平均すると、年間の中で賃金が高い3月及び4月の就労実態を反映した形で保険料が算出され、一方で、就労日数の少ない5月分が反映されない場合が多く、その結果保険料が割高になっているケースがみられるとの指摘が従来からなされてきた。
これに関しては、2006年7月からに1ヵ月の報酬の支払い基礎日数を20日から17日以上に変更することが予定されており、これにより問題が緩和すると考えられる。制度改正後の状況を見ながら、なお不利益が残る場合には、基礎日数の考え方を、年間の賃金を平準化させる形で算出できるようにする、あるいは月給制でなく就労日数に応じて賃金が変動するような労働者においては別途算出式を設定するようにする等の検討も必要となろう。なお、この問題は、就労変動の大きいアルバイト社員や請負社員も同様に発生する課題である。
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4. 派遣労働者の社会保険適用に関して派遣先企業の責任の強化の検討
現行労働者派遣法において、派遣元事業主は、労働・社会保険に加入していない派遣労働者については、その具体的な理由について、派遣先及び派遣労働者に通知しなければならない。また、派遣先は、派遣元から適正でない理由の通知を受けた場合に、派遣労働者を労働・社会保険に加入させてから派遣するよう求めなければならない。派遣労働者に対する雇用保険、社会保険の適用促進を図るためには、雇用主である派遣元事業主が加入の責任を負うことは当然であるが、派遣先においても、派遣労働者の「指揮命令者」すなわち使用者として、労働者の社会保険の適用に一定の責任を果たすことが求められよう。
例えば海外の事例をみると、ドイツで、派遣元の保険料不払いの際の補充責任として派遣先企業に連帯責任が課されている((社)日本人材派遣協会「イギリス・ドイツ・フランス3カ国 人材派遣事業実態調査報告書」(1997)より)。社会保険の適用に関しては、派遣元の責任とされているが、適正な適用関係にないことを知っていながら当該労働者を受け入れる派遣先があるとすれば、その責任も明確にすべきであろう。これは、派遣先のコンプライアンスの問題からも対応が求められることである。派遣先事業所に対するアンケート調査においても、加入要件を満たしながら社会保険に加入していない派遣労働者の受け入れについて、「受け入れるべきではない」との意見が41.5%、「派遣は受け入れつつも、派遣先として、社会保険の適用を派遣元に働きかけるべきだ」との意見が45.6%にのぼり、派遣先の責任について一定の理解が得られていると考えられる。
今後、派遣先の責任に関して現行法の適用状況をみながら、制度改正を行う必要について検討を行う必要がある。
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5. 手続きの簡素化
社会保険と雇用保険の適用の手続きは、それぞれ独立に行われている。したがって、派遣元事業主は、派遣労働者の入退社の手続きの際には、社会保険事務所及び公共職業安定所等の双方で手続きを行う必要がある。また、手続きにあたっての添付書類として、年金手帳等の添付等が義務付けられている。
これらの手続きは、派遣労働者に限って行うものではないが、派遣労働者は一般の労働者と比べて資格の得喪が頻繁に発生し、派遣元企業の事務負担は大きい。また、派遣労働者についても、社会保険間での手続き(健康保険→国民健康保険、厚生年金保険→国民年金)が頻繁に発生するため手続きの負担が大きく、結果的に派遣労働者の社会保険の無保険期間等を招くことにつながっている。
これらを改善するためには、以下のような手続きの一元化や添付書類の簡略化が必要である。
(1) 添付書類の簡略化
派遣労働者の場合、派遣就労が開始・終了したときに資格の得喪の手続きが発生するが、一般の労働者と異なり、事業主として手続きを行う派遣元企業に出社するわけではない。したがって、手続きの際に必要な添付書類等を派遣元企業と派遣労働者との間で郵送でやりとりすることになる。このため、派遣元企業では、手続きに係る事務負荷だけでなく、年金手帳等の郵送料(書留・配達記録等を利用する会社が多い)の負担が重くなっている。
今後は、電子申請を活用しつつ、事業主責任において添付書類等を確認することで、書類の添付を省略できることが望ましい。 
【社会保険の手続きに係る主な添付書類等】
制 度 届 出 添付書類 電子申請
厚生年金保険 被保険者資格取得届 年金手帳
被保険者資格喪失届 (確認書類)
報酬月額算定基礎届 (確認書類)
健康保険 被保険者資格取得届 なし
被保険者資格喪失届 被保険者証等
被扶養者(異動)届 被扶養者確認書類
報酬月額算定基礎届 (確認書類)
傷病手当金請求書 医師の証明書類等
(2) 社会保険間の手続きの一本化
前述のとおり、派遣労働者は、短期かつ断続的に就労することが多いため、社会保険間の移動が頻繁に発生する。したがって、派遣就労終了後、国民健康保険や国民年金に加入することになる被保険者については、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の資格喪失手続きと同時に国民健康保険・国民年金の加入手続きを一括して行うことができると、当該労働者の負担が軽減する(例:複写用紙の最後に新たに加入する制度の資格取得届を添付する等)。
これにより、派遣労働者の医療保険の無保険期間や年金の滞納期間が減少することも見込まれる。
(3) その他
社会保険や労働保険の事務手続きについては、届出先等が異なるため、事務の効率化を妨げている。そこで、従来から手続きの一本化については要望をあげてきた。
今後は、手続きの一本化を要望するとともに、前述のとおり、頻繁に発生する届出についてはすべて電子申請化を可能にすることを要望すると同時に、事業主による確認を条件として添付書類の省略を認めてもらうことが望ましい。
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6. 年金制度の抜本的な見直しを見据えた要望
現在、年金制度に関しては様々な議論が展開されている。現行の賦課方式の見直し、複数の年金制度の一元化、基礎年金部分の財源のあり方など、抜本的な見直しも検討の俎上にのぼっている。こうした年金制度改正が進めば、派遣就労の短期・断続性に起因する課題の解決も期待できることから、年金制度改正の方向性を注視しつつ、人材派遣システムと整合的な制度構築に向けた要望を行っていくことは重要である。
たとえば、基礎年金に税方式を導入する等の仕組みが導入されれば、少なくとも基礎年金に関しては、複数の年金制度を短期間で移動することの多い派遣労働者の制度加入手続きの問題が解決していくものと考えられる。同時に、それによって年金の無拠出期間が発生するという問題も解決できる。ただし、その場合でも報酬比例部分が残る限り、厚生年金保険の加入・脱退の仕組みは残っていくので、手続きの簡素化はその意味でも重要となる。
人材派遣システムが労働市場の中で重要な役割を果たしていることに加え、今後の働き方の多様化を視野に入れると、働き方と社会保険制度の整合性を図ることは不可欠である。人材派遣業界においても、派遣就労のみならず、多様な働き方を促進するという視点から、社会保険制度の見直しの議論に対して、積極的な発言を行うことが期待される。
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当該報告書について
この報告書は社団法人 日本人材派遣協会が、年金制度検討委員会において平成17年度の事業として作成した「人材派遣業界における健康保険・年金制度適用の改善提案に関する調査・提言」から、『現状の制度の問題点』『現行制度下での対応』『改善要望点』の3点を中心に、広く派遣業界(協会内外)におけるコンプライアンスを促すために、社会保険加入の徹底を図ることを目的に抜粋・加工して作成したものです。
現行の社会・労働保険制度は、「短期・断続・移動」を特徴とする派遣就労において、そのまま適用すると様々な不整合を生じます。そのことを認識した上で、やはり現行制度を遵守していくことが、人材派遣業界の信頼性を維持・向上していく為には絶対不可欠な態度だと、当協会は考えます。
しかし、現状をただ甘受するだけではなく、その不整合によって生じる派遣労働者の不利益・不都合や、あいまいな加入基準によって派遣元に対して生じる誤解を無くすため、単純明快な運用ができるような加入基準を設けるべく、今後、機会をみて広く行政・社会に働きかけていく考えです。
また、年金料率の上昇は、今後の派遣会社の経営を否応なく圧迫していきます。
当協会では、その現実的な対応についても深く研究し、健全な業界の発展を目指して、今後も様々な情報を提供していく考えです。
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