労働者派遣事業における障害者雇用の現状と課題及び当協会の要望

社団法人日本人材派遣協会/総務課長 加藤 髙敏

  目次
 
一、障害者雇用の現状
「障害者雇用の促進等に関する法律」では、「障害者雇用率制度」が設けられており、常用雇用労働者数56人以上の一般民間の事業主は、その労働者数の1.8%以上の障害者を雇用しなければならないとされています。ここでいう「障害者」とは、「身体障害、知的障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」をいいます。

その障害者の雇用状況は、厚生労働省が発表した、平成15年6月1日現在の「障害者雇用状況報告書」集計結果によると(1人以上の身体障害者又は知的障害者を雇用することを義務付けられている事業主等は、毎年6月1日現在の障害者の雇用状況報告を公共職業安定所長に提出しなければなりません)、一般の民間企業における常用労働者数16,748,964人 身体障害者及び知的障害者の雇用障害者数は247,093人、その実雇用率は1.48%です。前年より0.01ポイント上昇しました。しかしながら、1.8%以上という障害者法定雇用率は達成できていません。

産業別の実雇用率は、サービス業関連では1.37%となっています。その中の一部産業である労働者派遣業においても障害者雇用が進んでいないと指摘されています。平成16年9月に当協会が実施した常任委員会社15社を対象とした、平成16年6月1日現在の「障害者雇用状況報告書」集計結果によると、常用雇用障害者の実雇用率は1.36%で、そのうち障害者である常用雇用派遣労働者の実雇用率は0.15%、内勤社員である常用雇用障害者の実雇用率は1.65%、特例子会社の常用雇用障害者の実雇用率は162.81%(ダブルカウントされる重度障害者を多数雇用している)となっております。
(常任委員会社の障害者雇用状況報告書集計結果) 社団法人日本人材派遣協会
  (1)((2)+(3)+(4))合計 (2)スタッフ数 (3)内勤者数 (4)特例子会社
常用雇用労働者数 60,481 46,118 14,043 320
常用雇用障害者数 821 68 232 521
雇用率 1.36% 0.15% 1.65% 162.81%
(人)
注1 平成16年6月1日現在の障害者雇用状況報告書を集計
注2 対象会社:常任委員会社(15社)
注3 内勤者数にはアウトソーシング部門等の社員も含む
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二、労働者派遣事業の課題
ところで労働者派遣事業(人材派遣事業)とは「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること(当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含みません。)を業として行うことをいいます(労働者派遣法第二条第一及び第三号)。
労働者派遣は次の3のポイントからなります(図1労働者派遣事業)。
ポイント
(1) 派遣会社(派遣元)が自己の雇用する労働者を労働に従事させること
(2) 他人(派遣先)の指揮命令を受けて、当該他人(派遣先)のために労働に従事させること
(3) 労働者を他人(派遣先)に雇用させることを約してするものを含まないこと
図1労働者派遣事業
図1労働者派遣事業
この労働者派遣事業において障害者雇用が進まない理由としては、構造的な問題点が指摘されています。すなわち、労働者派遣事業においては、派遣労働者は雇用主たる派遣元(派遣会社)のもとではなく、派遣先のもとで労働に従事させるシステムのため、障害者である派遣労働者を派遣先に派遣しようとしても、派遣先の理解が得られないと派遣できないという点です。また、労働者派遣法では「派遣労働者を特定することを目的とする行為」が禁止されているため(労働者派遣法第2条第7項)(努力義務)、派遣先が障害者の利用に理解があり、是非障害者を受け入たいと申し出て、その障害者の状況に最適な就労条件、職場環境等を整えようと思ったとしても、事前面接、履歴書の送付を要求することはできないことです。また、個人情報保護の観点から、労働者派遣契約に基づき派遣されてくる派遣労働者が障害者か否かまったく派遣先にとっては知る手段がないのです。これでは障害に応じたきめ細かな受入れ態勢は不可能になってしまいます。さらに派遣先に例えば車イス用のスロープ、エレベーター等、障害者の受入れ態勢を整備していただくことも必要となります。
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三、当協会の要望
ところで、労働者派遣事業は、派遣元が労働者を雇用して当該雇用関係の下に、クライアントたる派遣先のために当該労働者を労働に従事させることを業とするもであって、障害者を雇用し、派遣先に派遣することによって、障害者の雇用を促進することができる社会役割を果たす機能を有するものです。

そこで、当協会では、これらの問題を解決し、障害者雇用を促進するため、平成16年7月13日付当協会篠原欣子会長名で、当時の坂口力厚生労働大臣あて、「労働者派遣業における障害者雇用に係る要望」書を提出いたしました。
(労働者派遣事業における障害者雇用に係る要望書)
日派協発第45号
平成16年7月13日
厚生労働大臣
  坂口 力 様
社団法人日本人材派遣協会
会 長 篠 原 欣 子
 
「労働者派遣事業における障害者雇用に係る要望」について
 
現在の「障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「法」という。)」は、会社が自己の雇用する常用労働者に対し一定比率(1.8%)の障害者を常用労働者として雇用することを定めており(法第14条)、これを達成していない会社は障害者雇用納付金を納付しなければならないとされています(法第26条)。平成15年6月1日現在の一般民間企業の障害者の実雇用率は、1.48%と、障害者雇用率が達成できていないのが現状です。
ところで、労働者派遣事業は、労働者を雇用して当該雇用関係の下に、クライアントたる派遣先のために当該労働者を労働に従事させることを業とするもので、障害者を雇用し派遣先に派遣することによって、障害者の雇用率をアップすることのできる社会的役割を果たすことができる機能を有するものです。
  しかし、労働者派遣事業においては、派遣労働者は雇用主たる派遣元のもとではなく、派遣先のもとで労働に従事するシステムのため、障害者である派遣労働者を派遣先に派遣しようとしても、派遣先の理解が得られないと派遣できないのが実態です。また派遣先に障害者受入態勢を整備してもらうことも必要となります。
  そこで、当協会としては、これらの問題を解決し、障害者雇用を促進するため、下記の現実的な要望をいたしますので、ご検討をお願い申しあげます。
 
 
1 派遣先が障害者である常用雇用派遣労働者を受入れた場合、派遣元の雇用する労働者として法定雇用率にカウントするのみならず、派遣先の雇用労働者として法定雇用率にカウントしていただきますようお願い申し上げます。
 派遣先としても、受入れた障害者である派遣労働者を自社の雇用する労働者として認めていただければ、派遣先の理解も進み、障害者の受入促進に効果があると考えられるからです。
 同一の派遣労働者を、派遣元の労働者及び派遣先の労働者としてダブルカウントするのは、派遣業界だけを優遇することになるので、問題であるとの指摘もありますが、派遣労働者を受入れた派遣先にとっても法定雇用率にカウントされるので、派遣業界だけを優遇するものではありません。また、売上高に対する人件費割合が他の業種では約15%(参考:財務省法人企業統計)であるのに、人材派遣業の場合は約75%(参照:法人事業税の取扱)と、同じ障害者雇用率であれば、業種として障害者の雇用吸収力が他の業種に比べ約5倍と評価することができます。この点からいっても特に派遣業界を優遇するものではありません。われわれは、障害者の雇用に拡大を図る趣旨から雇用促進につながる方策を提案するものです。
 問題は、派遣労働者を派遣先の法定雇用率にカウントするのであれば、派遣先が受入れている派遣労働者を派遣先企業全体の常用労働者総数に加えなければならないとする考え方です。
 派遣先が受入れた障害者たる派遣労働者を法定雇用率にカウントするならば、理論的に、障害者以外の派遣先が受入れた派遣労働者も派遣先企業の常用労働者総数にカウントしなければならないとは思いますが、障害者の雇用を促進する観点から、是非、派遣先が受入れた障害者たる常用雇用派遣労働者を法定雇用率にカウントする方法だけにとどめていただきたいと要望いたします。
 なお、同一派遣労働者を派遣元及び派遣先の労働者としてダブルカウントしている例は、総括安全衛生管理者の選任の要否を判定する際に認められているので(労働者派遣法第45条第1項、労働安全衛生法第10条)、理論上問題は無いと考えます。

2 障害者雇用納付金制度に基づく助成金を、労働者派遣の実態に合わせ、障害者である派遣労働者を指揮命令し、使用している派遣先に対してもその使用にあわせ助成するようお願い申し上げます。
 派遣労働者は、雇用主である派遣元の事業所で就労するのではなく、指揮命令者たる派遣先で就労するのです。
 ところが、障害者雇用納付金制度に基づく助成金は、その障害者の作業を容易にするために必要な障害を克服するために配慮された施設、又は障害を克服するために改造された施設の設置又は整備を行うかあるいはそれらを賃借する場合に、その費用の一部を助成するもので、雇用者たる派遣元事業主が助成いただいても、障害者たる派遣労働者が派遣元の事業所で就労していませんので、意味がありません。それよりも、雇用主ではないのですが、障害者たる派遣労働者が就労している派遣先事業所に助成しなければ、その政策効果がありません。以上のことから、助成金を一律派遣元に助成するのではなく、障害者が就労している派遣元・派遣先に応じて助成すべきであると考えます。これによって、障害者である派遣労働者の派遣先での就労がしやすくなり、障害者の雇用が進むと考えます。

3 特例子会社制度の要件を緩和していただきますようお願い申し上げます。
 事業主が障害者の雇用の特別の配慮をした子会社を設立した場合、一定の要件のもとに子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなし、実雇用率を計算できることになっていますが、親子関係がない企業であっても、共同で協同組合方式ないし共同出資方式で協同組合ないし株式会社等を設立し、障害者を雇用し、出資等した企業に雇用されたものとして、実雇用率を計算でるようお願い申し上げます。
 ただ、どのように障害者の雇用率をカウントするのかは、出資比率、支配比率、仕事の依頼比率等、共同出資者等間で自由に決定できるようお願い申し上げます。
 この制度は、労働者派遣の場合、派遣先の理解が得られないと障害者雇用が進まない現状から、共同で派遣以外の方法で、障害者の雇用促進を図る方法とし、派遣会社の仕事の一部をアウトソーシングする受け皿として考えたものです。それも、現行の特例子会社方式が規模の点から使えない中小企業の実態に合わせて、フレキシブルに運用できるように要望するものです。これによって、制度的に障害者雇用が困難な派遣業界の障害者雇用を促進したいと考えています。
 
以上
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四、要望内容に対する補足
以下その具体的な要望内容を、最近のアンケート調査をもとに補足的に説明いたします。
1. 要望1について
派遣先が障害者である常用雇用労働者(以下「常用雇用障害派遣労働者」という。)を受入れた場合、派遣元の雇用する常用雇用障害者として実雇用率にカウントするのみならず、派遣先の常用雇用障害者として派遣先の実雇用率にもカウントしていただきたいとの要望です。

派遣元が雇用する常用雇用障害派遣労働者を派遣先の障害者実雇用率にカウントできるならば、派遣先の理解も進み、派遣先の障害者受け入れ促進について効果があると考えられるからです。

一で述べた、平成16年9月に当協会が実施した平成16年6月1日現在の「障害者雇用状況報告書」集計結果によると、常用雇用障害者の実雇用率は1.36%で、そのうち障害者である常用雇用派遣労働者の実雇用率は0.15%、内勤常用雇用障害者の実雇用率は1.65%、特例子会社の常用雇用障害者実雇用率は162.81%と、障害者である常用雇用派遣労働者の実雇用率が著しく悪いことが、データによっても明確になりました。内勤者の障害者実雇用率は1.65%で、1.8%の法定雇用率を達成できていなかったとしても、全国平均の1.48%より上回っていること、また、特例子会社では何と100%を超す実雇用率で、今後労働者派遣事業において障害者の実雇用率をアップするためには、この派遣労働者の障害者雇用を進めることが緊要な課題となっています。この問題の解決策として、この要望1のダブルカウント方式は有効な手段と考えます。

労働者派遣事業主に雇用される常用雇用派遣労働者数は、厚生労働省発表の平成14年度労働者派遣事業報告集計結果によると、一般労働派遣事業及び特定労働者派遣事業合わせて338.594人となっており、要望1のダブルカウントが認められ、全国平均の1.48%の実雇用率まで派遣労働者の障害者雇用が促進されたとすると、実数として約4,500名の障害者雇用増が予想されることになります(※1)。派遣元及び派遣先のダブルカウントをすると約9,000名の障害者雇用増となります。

同一派遣労働者を、派遣元及び派遣先の労働者としてダブルカウントとするのは、法の下の平等からいって問題であるとの指摘もありますが、派遣元にとっては同一人を障害者雇用率に1人としてカウントするのであって、2人とカウントするのではありません。合わせて派遣先に1人とカウントするので、派遣元に特に有利に扱っているわけではないのです。これはあくまでも障害者の雇用促進の手段であって、例えば重度障害者を雇用した場合1人を2人と計算するのと同様の考え方であると考えます。

またこの同一人をダブルカウントする考え方に対しては、同一人をダブルでカウントすると、総数としては障害者の雇用数が増えないのではないかとの批判が考えられます。確かに、この批判はもっともな点がありますが、現行のままであるならば、派遣先の理解が得られず、先ほど説明した実数としての約4,500名の障害者雇用も進まない結果とならざるを得ないと考えます。一歩でも前進する考え方として検討に値するものと考えます。目的はあくまでも障害者の雇用促進です。

これに対して常用雇用障害派遣労働者を雇用した場合、同一人を派遣元及び派遣先にそれぞれ0.5人と0.5人として計算するとする考え方も理論上考えられます。

この考え方は、派遣先が受入れた常用雇用派遣労働者数の0.5倍を法定雇用率計算の分母となる常用雇用労働者の中に加え、派遣先が受入れた常用雇用障害派遣労働者数の0.5倍を常用雇用障害者数の中に加えるものです。派遣元についても同様に、雇用した常用派遣労働者の0.5倍を法定雇用率計算の分母となる常用雇用労働者数の中に加え、常用雇用障害派遣労働者数の0.5倍を常用雇用障害者数の中に加えるものです。

(同一人を派遣元及び派遣先にそれぞれ0.5人として計算する考え方)
* 常雇本社労働者とは常用雇用内勤社員と特例子会社社員をいいます。
この考え方に対する問題点としては、以下のことが考えられます。

労働者派遣の特質は、短期、断続、移動性の強い労働形態で、厚生労働省発表の平成14年度労働者派遣事業報告集計結果によると、一般労働派遣事業においては、常用雇用労働者187,813人の倍近い354,824人が常用雇用以外の労働者であって、労働者派遣を使用する派遣先にとっては、障害者雇用率を計算する常用雇用労働者数たる分母の数を確定しにくくなることです。要望1の考え方は、単に常用雇用障害派遣労働者に該当しなければ、雇用率から除外すれば足りますが、この考え方の場合には、法定雇用率計算の元になる分母が不確定になりますので、現場の混乱が惹起される恐れがあります。また、今までなかった常用雇用派遣労働者の分まで派遣先に障害者の雇用義務が課されることによって、派遣先は、ますます短時間、短期間の派遣労働者・パートタイマー・アルバイト等使用することになって、障害者雇用の間口が狭まるのではないかと危惧されます。また、障害者の雇用義務を負うのは、常用雇用労働者を56人以上雇用する事業所であるので、そこまでに至らない規模の事業所に派遣する場合は、どのようにカウントしたらよいのか。常用雇用労働者を56人以上雇用する事業所であるか否かによってカウントの方式を変えるのか、疑問です。
2. 要望3について
当協会の集計した平成16年6月1日現在の「常任委員会社の障害者雇用状況報告」集計結果によると、常用雇用障害派遣労働者雇用率は0.15%と極端に低く、要望1の考え方が受入れられなかった場合、障害者の法定雇用率を達成できる道は、内勤社員ないし特例子会社で障害者雇用率を達成するしか方法がありません。ところが内勤者数だけで法定雇用率を達成するとなると、この調査で試算しても7.7%の障害者を雇用しなければならなくなります(※2)。内勤社員だけで障害者雇用率を達成するのは、現実的ではありません。

障害者の法定雇用率を達成するためには、特例子会社を新たに設立するしかその実効性が担保されません。しかしながら、中小規模の派遣会社にとって業務量の少ない特例子会社を単独で設立することは容易ではありません。構造的な問題を抱えた労働者派遣業界にとって、障害者雇用を進める手段として共同で協同組合方式ないし共同出資方式で、協同組合ないし株式会社等を設立し、障害者を雇用し、出資等した企業等に雇用されたものとみなして、実雇用率を計算できるのは、有効な手段となりえると考えます。

特にこの特例子会社方式を推奨し、障害者の雇用の場を確保するには、単に出資・支配等で事足りるとせず、一定以上の外注を1人分の雇用とみなしてこの特例子会社方式を広め、障害者雇用の場を広げることこそ、その目的に合致するものと考えます。

(※1) 338.594人×(1.48%(全国平均実雇用率)-0.15%(当協会調査:障害者たる派遣労働者の実雇用率)≒4500
(※2) (46,118人+14,043人)(常用雇用労働者数)×1.8%}÷14,043=7.7%)
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